この1年間ほどで、LMSを日常的な教育・学習活動において全面的に利用することが当たり前になりました。宿題の提出や採点だけでなく、授業や各種コミュニケーション、様々な予定の管理、テストの実施など、あらゆる活動がLMSを中心に行われています。LMSが教育学習活動における一番重要なユーザインターフェースになったのです。教育学習という領域で、情報システムであるLMSが全ての活動で利用されることになり面白いことが起きています。教育学習活動に参加する全てのユーザの様々な行動データを収集することが可能になったのです。
行動データが収集できるという意味について、教育という分野から離れて、小売ビジネスの例で例えてみたいと思います。小売ビジネスは本来、人間同士の対面でのコミュニケーションで成立していました。売り手は顧客の顔色を伺い、店頭での振る舞いを観察し、顧客がどのような商品に魅力を感じているのか、どのような理由で購入を諦めるのか、推察することができました。
ECのような通信販売になると顧客の顔色や振る舞いを観察することはできません。自分が売れそうと思い込んだ商品を仕入れて並べるだけです。対面のコミュニケーションのように人間の手間はかかりませんので多彩な商品を扱えますし、非常にたくさんの顧客に対して販売サービスを提供できる一方で、随分荒っぽい顧客対応しかできません。そこで利用されるようになったのがアクセス解析のシステムです。誰が、どの商品を、どのような頻度で、どれくらいの時間をかけて閲覧し、ショッピングカートに入れては比較して、迷った末に購入してくれたのか、あるいは購入してくれなかったのか、ECシステムの利用操作履歴データから類推できるようになりました。あたかも対面販売のように顧客の気持ちや事情を推察することができるようになったため、顧客のニーズに合致する商品を、顧客の望むタイミングで提供することが容易になりました。更には行動履歴の類型分析から、顧客が思いつかなかった(自分が欲しがっていることに気づいていなかった)ような別の商品をお勧めして、売上を伸ばすこともできるようになりました。これらは情報システムが自動処理できるため、顧客や商品の数が莫大であったとしても対応が可能ですが、ECシステムを通じて購買活動が行われるからこそ実現できることです。
教育学習という局面でも同じことが起きています。今までは、ほとんど対面での授業のみで教育や学習活動が行われていました。この状況では情報システムに活動の履歴を取り込むことは容易ではありません。様々な学習履歴データは消えていったのです。LMSを教育学習活動の全般において利用すれば、教師や受講生の行動履歴の詳細なデータを記録することが可能になります。そしてこれらの教育・学習履歴データを分析することで、教育内容を学習者に個別最適化するようなカスタマイズも可能になります。もちろん、教育サービス全体の俯瞰も容易になります。
今後は学習データを如何に再利用するかという部分に焦点があたり、LRS(ラーニング・レコード・ストア)志向の教育インフラが求められていくと予想されます。LMSや各種教育ツールから収集される学習データ(知識中心)、学修ポートフォリオ管理システムから収集される習熟状況データ(技能・態度中心)を、LRS(学習履歴データベース)で集約し、即時分析とフィードバック、学修フロー変更に反映させることを目指せるようになるはずで、教育機関では教材提供に留まらないLMSの発展的な活用に繋がります。
LMSが利用されるようになって20年ほどですが、教育環境は大きな変化の時期を迎えています。まさにこれから、いままで蓄積された教育工学の理論の元に、LMS + Learning Portfolios + LRS + コンピテンシー管理 を可能とするプラットフォームで、データ志向の教育スタイルが実現されようとしています。
最先端の設計思想で作られているCanvas LMSは、このような学習データを収集するための仕組みが用意されています。あらゆるシステム操作において、トラッキングを行い、外部のLRSに学習データを提供することが可能です。工夫次第で、データドリブンな教育学習を実現するための、優れたユーザインターフェースを持つ中核システムとして活用できるのです。